和田 龍太

Wada Ryuta
准教授 博士(国際政治経済学)
和田 龍太
Wada Ryuta
准教授 博士(国際政治経済学)

それがなかったら今の自分は絶対ない

2002年に東海大学国際学科を卒業しまして、今年2016年ぶりに母校へ戻ってきました。私は大学に入るまで英語に興味もなく、本当にできなかったんですよ。東海大学付属相模高校の出身なんですけど、ずっと剣道ばかりしていました。しかし剣道で挫折してしまって、大学に行く時に担任の先生から「何か身につくことを勉強しなさい」とアドバイスいただいて国際学科に入学したんです。

東海大学って海外の大学との交流が盛んなんですよね。私は3年生の時に協定校であるイギリスのエセックス大学へ、派遣留学として1年間留学しました。それがかなり大きなきっかけになったんです。それがなかったら今の自分は絶対ない、と言えるくらい。

留学中はすごく勉強させられましたね。勉強する時間で遊ぶ時間がないんです。すごーく勉強させられたんです。リーディングも1週間ですごい量の本を渡されて、毎日泣きながら予習と復習をして、という毎日。でもそれが社会人になる上で、重要なきっかけになっています。これくらいの苦しい思いをしたんだからなんでもできるだろう、と思えるようになりました。

4年生で東海大学に戻ってきて、大学院はイギリスに戻りたいと思ったんです。それで修士課程はイギリスの、名前が似ているんですが別の、サセックス大学に行きました。こちらで修士課程を終えて、今度はお金がなかったので日本の国立の筑波大学の大学院に博士課程で行きました。そこで少し休学しながら、今度はアメリカの大学に行きたい、と。それでアメリカの大学で客員研究員やって。首都のワシントンにある大学だったのでご縁があって、30歳の頃にアメリカの大使館に2年間限定で勤務することになったんです。

どこまで未来を展望できるのか

大使館での毎日はすごく忙しくて心を病むほどでした。役所ってブラックなんですよね。その時は辛かったです。朝職場へ行き、深夜に帰るという毎日でしたから。すごく忙しい時だったんですね。

私は大使館の政務班というところで専門調査員という肩書きで、アメリカの政治・外交に関する調査・分析を担当していました。当時のオバマ大統領やクリントン国務長官たちの発言などを取りまとめて、分析を加えて日本の外務省に公電として送る、ということやっていました。他には出張者対応だとか、レセプションにおける警備もしました し、いろんなことをしましたね。

大使館を退職して三井物産戦略研究所(という名の三井物産の調査部です)に入社しましたが、そこでも引き続きアメリカを担当させていただき、加えて中南米も担当するよう言われました。三井物産は中南米が結構強いんですよね。それでブラジル、メキシコ、コロンビア、ベネズエラ、チリなどの国の政治情勢分析もして欲しいということで。私はずっと政治学をやってきたので、例えばキューバやベネズエラだったら「今社会主義を抱えている国の今後の動静は?」「政権交代はいつ起きる?」ということなどを調べるんです。そして政権交代が起き、もっとビジネスを重視する政権ができたら、よりビジネスがしやすくなる、そこには早く進出しなければいけない、というように「どこまで未来を展望できるのか」ということを中心に仕事をしていましたね。基本的には東京の本社にいて、出張先としてはアメリカ、ベネズエラ、メキシコ、コロンビアなんかに時々行っていました。

現場を知るということがすごく重要

三井物産戦略研究所には4年弱いました。2014年に土曜日だけ国際学科で非常勤講師をやらせていただいていたんですね。元々教えていらっしゃった先生が辞めるので、その一部を担当して欲しいと言われたのが最初ですね。非常勤をやっていく中で、社会と大学のつながりを学生はなかなか感じられない、ということを実感したんですね。

私自身卒業生ですから、卒業生同士の横のつながりがあります。みんな10年選手で外資コンサル行ったり流通だったり、学校の先生だったり、私以上に立派な卒業生っていっぱいいるんですよ。そういう人たちと大学を結びつけることで学生たちに自信をつけるきっかけになるんじゃないかと思うんですね。東海大学生って自信がないんですよ。偏差値低いし、特に付属生は勉強していないっていう意識がある。でも頑張れば自分のキャリアアップできる、世界で働く機会がどんどん見えてくるんですよね。非常勤として働きながら「可能性をもっと示すことができたら」と思うようになりました。パートタイムではなくフルタイムだったら「もっとできる」と思ったんですね。

大学に戻ると決めた時には、躊躇しましたよ(笑)。年収はがたっと減りましたし、家族は反対しました。でも三井物産のような大きな企業は私がいなくても成り立つんですよ。優秀な人たちがどの部署にもいますから。ただ東海大学は人手不足で、学生がどういったキャリアを持って、どういった目的を持って進めばいいかわからない。私自身会社員だったので、こういう卒業生がいいるよ、みんな平凡だったけど頑張ってここまで来たんだよというのを示せると思ったんですよね。そういう意味では三井物産にいるよりも東海大学ではたくさんやれることがあるなと思いましたね。

私が社会人をやっていた期間に痛感したことは、「現場を知るということがすごく重要」ということでした。そういうことを学生には伝えたいし体験してほしい、共有したいと思いますね。大使館での仕事も、三井物産での仕事も「問題意識を持って仕事をする」ということは共通しています。みんな「もっと日本の社会を良くしたい」といった気持ちで働いているという意味では一緒なんですよね。日本が少子高齢化で人口が減っていって市場規模がどんどん小さくなるけれど、世界に日本のプレゼンスを示したい、高めたい、というのは共通しているんですよね。だからこそ企業だけでなく日本の大学も負けていちゃいけないんですよね。そこで私がこの大学できることっておそらくたくさんあるのかな、と思って転職を決めましたね。

もっと視野が広がる

私の研究テーマはアメリカとイギリスの国際関係です。またアメリカの政治経済は興味深いと思っています。アメリカって先進国の中では唯一人口が増えているんです。ヒスパニック人口が増えていて、それに伴って全体的に増えていて。シェール革命もあってエネルギーもある。製造業もある、ITだけじゃなくイノベーションも進んでいて、グリーンエネルギーだとか、再生可能エネルギーとか、なんでもあるんですよね。こういう国ってあまりないんです。私の考えでは、地球規模で見たときに、唯一、長期的に楽観視できる国ってアメリカなんです。ただアメリカ国内をつぶさに見ると経済格差も進んでいる、政治的に考えていることも分断されている、社会も実はバラバラ、テロの脅威にもさらされている、中東やアジアにアメリカのプレゼンスを確保したいけど、その影響力が少しずつ落ちてきている……という状況があります。その中でこれからの米国をどうとらえるのか、というのを追ってきました。

三井物産の時によくありましたけど、それぞれの担当の国が違うので担当者同士議論になるんですよ。それが面白いんです。私は米国担当ですけど例えばロシア担当に「アメリカは2枚舌で……」って言われて反論したり、中国担当者と「アメリカは新型の大国関係認めたじゃないか」「いや、アメリカは認めてない!」というような議論がしょっちゅうでした。そういうことを大学内の先生同士でも、学生に公開でやっても面白いなと思うんですよね。一つの国を深掘りして研究することも大切ですけど、各国情勢が他の国や地域に与える影響や、歴史的に見て今どういう状況なのか、継続性はどうなのか、というように過去と現在をつなげて見ることで、未来がなんとなく見えてくるんですよね。そういうことを実際にエコノミストやアナリストがやっているんですよね。だから過去を知ることも大事なんですよね。

アメリカは日本にとってはすごく身近な国です。アメリカ抜きでは日本のビジネスも外交も成り立たないぐらい。アメリカを見ることで日本の方向性も見えてくるんです。例えば投資をするときにどこに投資をしたら良いかとか、どこの国債を買おうか、どこに進出しようか、というときに日本の鏡になるんですよね。そういうことが働きながら見えてきましたね。こういった私が経験したようなことを学生時代から経験できたらもっと視野が広がると思うんです。

まずは英語に慣れ親しむ

私の授業は基本すべて英語です。ゼミも授業も英語に触れる。究極的には内容はどうでもいいんです。ただ、英語で触れる事自体に意義がある。まずは英語に慣れ親しむ。耳も口も頭も使って全部で、英語を体感して欲しいんですよね。

これからの時代、どういった職種についても英語に触れる機会って結構あるんです。私自身、英語が得意なわけではありません。でも慣れ親しむ事はすごく重要だと思います。それから英語でコミュニケーションをとる事を重視します。ディスカッションが出来たらなおいい。簡単なやり取りだけでも英語でやること自体に意義があるはずだと考えています。日本語でやる部分はテクニカルなところですね。今やっていることが社会人になってどう生きてくるのか。なりたいものがあるとすると、それに向かって何をしないといけないのか、ということをゼミでやっていきたいと思っています。

私が留学した際、はじめは理解度なんて20~30%でしたね。毎日日本に帰りたかった(笑)。でも「帰国したら恥ずかしいな」という思いがあったのでその時は「とにかく続けよう」と思いました。寂しかったし辛かったし、差別にもあったし、嫌なことばかりありました。だけど続けているうちに「なんとかなるもんだなあ」と思いましたね。そこで感じたのが「とにかく4ヶ月」ということ。例えば9月に留学生活が始まったらお正月まで頑張る。1月、2月くらいになってくるとだんだん耳が慣れてくるんです。やっぱり勉強も研究も慣れなんですよね。誰であっても、慣れればそれなりにかたちになってくるはずなんですよね。そういうことを一人でも多くの学生に体験してほしいと思っています。

いろんな選択肢がありますけど、いい会社に就職することも一つの良い選択です。給料もいいし、高級レストランに上司に連れて行ってもらえるし、オフィスも綺麗で環境もいいし(笑)。でも自分がどういう問題意識を持って、何を変えたいのか。自分のためにも、他の人のためにも自分が何ができるのか、そしてどのような効果が期待できるのか。そういうことを常に考えながら働かないとダメだ、とこれまでの経験で感じてきました。学生たちと一緒に、卒業生や社会人を交えながら考えていけたらいいなと思っています。
(2016年4月5日 聞き手:橋口博幸 [ 2023年10月更新 ] )

和田 龍太
Wada Ryuta
准教授 博士(国際政治経済学)
研究テーマ:アメリカ・イギリス外交史
専門分野:国際関係論、国際安全保障論、国際関係史

教員・研究者一覧

  • アルモーメン アブドーラ

    Al-Moamen Abdalla
    教授 日本語日本文学博士
    研究テーマ異文化コミュニケーション(日本とアラブ)、翻訳通訳の諸課題
    専門分野言語文化学、翻訳通訳&対照言語学
  • 荒木 圭子

    Araki Keiko
    教授 法学博士
    研究テーマアフリカ(系)人の脱国家的連帯
    専門分野アフリカ研究、アフリカン・ディアスポラ研究
  • 内川 明佳

    Uchikawa Sayaka
    准教授 応用人類学博士
    研究テーマ子どもの労働、教育開発、外国人住民の暮らしと子育て、支援
    専門分野教育人類学、文化人類学
  • 小貫 大輔

    Onuki Daisuke
    教授 教育学修士、ソーシャルワーク修士
    研究テーマ海外にルーツを持つ子どもたちの教育
    専門分野国際協力、ブラジル研究、性教育、性と生殖の健康・権利
  • 小山 晶子

    Oyama Seiko
    教授 政治学博士
    研究テーマ移民と社会統合
    専門分野EU研究、政治社会学
  • 金 慶珠

    Kim Kyŏngchu
    教授 言語学博士
    研究テーマ朝鮮半島と日本
    専門分野社会言語学、メディア論
  • 貴家 勝宏

    Sasuga Katsuhiro
    教授 国際学博士
    研究テーマグローバリゼーションと経済地域統合
    専門分野国際政治経済学
  • タギザーデ ヘサーリ ファルハード

    Farhad Taghizadeh-Hesary
    准教授 経済学博士
    研究テーマエネルギー政策、エネルギー経済学、グリーンファイナンス、マクロ経済学、日本・アジア経済学
    専門分野経済学
  • 田辺 圭一

    Tanabe Keiichi
    准教授 国際関係学修士
    研究テーマ内戦の要因分析、国内紛争後ガバナンス
    専門分野平和構築、人間の安全保障、国際開発論
  • ファーデン マルガリット

    FADEN Margalit
    准教授 法務博士
    研究テーマ国境を越える法律的な課題
    専門分野国際法・国際私法、異文化間コミュニケーション
  • 吉川 直人

    Yoshikawa Naoto
    教授 政治学博士
    研究テーマ持続可能な社会と経済システム
    専門分野国際開発理論・国際関係論
  • 和田 龍太

    Wada Ryuta
    准教授 博士(国際政治経済学)
    研究テーマアメリカ・イギリス外交史
    専門分野国際関係論、国際安全保障論、国際関係史
  • 李 優大

    Ri Yudai
    講師 法学修士
    研究テーマロシア・中東関係
    専門分野ソ連・イラン関係、ロシア外交史、中央アジア近現代史、国際公法
  • 田中エリス 伸枝

    Tanaka-Ellis Nobue
    准教授 応用言語学博士
    研究テーマテクノロジーと教育環境、リーダーシップ、言語教育と権力
    専門分野コンピュータ支援言語教育、異文化コミュニケーション
  • 衛藤 安奈

    Eto Anna
    准教授 法学博士
    研究テーマ中国の近代化
    専門分野中国近現代史
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